外の気配は異様にひややかで、あの夢枕にたった白蛇神のものとわかる。
家の外に飛び出した勝源はきのえを地に立たせる白蛇神の姿をみた。
「き、のえ」
白蛇神の陵辱に晒された娘の胸中を慮る勝源はきのえの顔を伺い見るしかない。
「確かに渡したぞ」
勝源にいいながら、白峰はきのえをみやる。
「いいな?」
なんの念をおされたか、きのえは白峰にうなづいてみせた。
そのきのえの横顔から白峰への感情をよみとろうとする勝源にきのえはゆっくりとふりむいた。
「かえりました」
振り向いたきのえの顔は我が家に辿り着いた子供の顔でない。
父親を慕う娘の顔でもない。
どんなにかつらかろうと案じた哀しい顔でもない。
「心配をかけました」
むしろ、勝源を労わる言葉まで吐くと、きのえは白峰をふりかえった。
「帰りや」
云われた白峰はうむとうなづくときのえをみた。
勝源は白峰の其の眼をみつめた。
―男の眼でしかないー
「男」のものでしかない直視を受けとめるきのえはすなわち、その男の「女」の態である。
二人の沈黙の間に勝源が入るには入れないやりとりがみえる。
冷たいばかりに見えた白峰のまなざしが柔らかい物になり
きのえを総包みにみつめあげると、ふっと、その姿がきえた。
―どういうことだ?ー
今の様は。
が、あふりをあげると脅すような神である。
きのえも従ったふりをしていただけなのかもしれない。
勝源はやっと、自由の身になったきのえとて、
白蛇神の気配がきえさるまでは本当のきのえをみせれないのだと考えた。
しーんとあたりが静まり返り冷たい気配もきえさると、勝源はきのえをよんだ。
「父さま」
きのえがまだ幼いときに、
勝源はきのえの母であり、おのれの妻である、静江をなくした。
それから、いくたびか、後添いの話はあったが、
きのえの母だけをたいじにしている勝源をみせたかった。
だから、今もってひとりみのまま、婆とふたりできのえをそだてあげた。
そんな親子の絆がある。勝源にとって、きのえが手中の珠であるなら、
きのえにとっても勝源は何物にも変えがたい親様なのである。
「きのえ」
ひとこと、よんだ勝源の手の中にきのえがすがりつくと、大きな泣き声がもれた。
「きのえ」
すまなんだ。
どうしてやることもできんで、すまなんだ。
助けてやることもできず、すまなんだ。
勝源の喉がゆれ、うめくこえになる。
「きのえ。かんにんしてくれ」
娘は勝源の胸の中で首をふった。
「きのえが父さまのいいつけにそむいたんじゃ。藤・・」
しゃくりあげながらもきのえはあやまった。
「父さまはきのえのことを、藤太が嫁になってほしいと思うておったんじゃろう?
じゃのに、もう、きのえは藤太に顔向けできん体になってしもうた」
本当に叫んでみたい名前は藤太ではない。
だが、辛い諦めをつけたきのえの胸の中に在るのは黒龍への怒りでしかない。
恋した男のあまりのつれなさはむしろ、憎しみを生み、それが、逆光のごとく、
きのえの幸せを祈った父にも、その父の選んだ男、藤太にも、
今更のごとくすまなかったと思わせるのである。
「きにすることはない。藤太もわかってくれたわ」
「きのえは」
「もう、いうな。わすれてしまえ。いいな?なにもかも、すんだこと。
この先、お前に、父も勝手なおしつけはもう二度とせぬから」
どうせよといえばいいのだろう。
きのえのこの先を望む白蛇神がいる以上、
藤太との事は無論、他の人間の男とも、ならぬ事と諦めるしかなかった。
『父がなんとかして』
だが、委細。法も術も思いつきはしない。
ただ、ただ、白蛇神のおもいのままにさせてなるものかとそれだけしかない。
「父さま。きのえは、白峰神社の建立ののちその社にはいる覚悟をしております」
一番畏れていた決心をきのえ自らが口にした。
「まて」
それがさっき白蛇神がきのえに念をおしたことだったにちがいない。
だが、
「きのえ。おまえはいま。おまえの身の上をはかなんで、
白蛇神のいうとおりにするしかないと思い込んでおるだけだ」
もう少し日が経てば、きのえも己の本心とむきあうよゆうができてくるはずである。
「性急に考えを決めるのは、今のお前ではなかろう?」
とにかく、まずはゆっくり身体を心をやすませてやらなければならない。
勝源はやっと、きのえを家の中にうながした。
「婆がまっておる。朝飯をくうて、少しよこになって、な、
それから、ゆっくり、身の振り方をかんがえよう。他に法があるやもしれぬし、
おまえもおちついたら、違う考えを持つかもしれん」
とにかく、白蛇神の物になるしかないという考えから目をそらせてやらねばならない。
「さ。婆に無事な姿をみせて、よろこばせてやってくれ」
「・・・・」
こくりと頷いたきのえを背をおして、勝源は戸口にはいると、
玄関の先に、しゃがみ込んだままの婆がいた。
「なにをしおる」
「わわわ」
いかぬ。婆は白蛇神の姿をみて、肝をつぶしている。
神の姿を目の当たりにして畏敬と惧れの念にとりつかれている。
恐れおののいた婆が何をいいだすか、わからない。
勝源は婆の頬をぴしとはたいた。
とたん。現実の痛みと云う物はありがたいものである。
「おのれ。勝源。親さまにてをあげるとは、なんたることや」
自身の怒りが先になれば正気である。
「婆。親さまにはむかう婿はどうである?」
勝源の謎賭けに目が開いてほしい。
はたして、
「確かに神といえど婿なれば」
正しくは婿なぞと認めていない勝源であるが、娘を無体にひっ攫って、
婿になる契りを与えるなぞ、今の勝源同じく親様の頬をひっ叩く暴挙でしかない。
これにきがついたとたん、とうのきのえがめにうつる。
婆の正気はすぐさま、きのえへの情にかわる。
「ああ。よう、かえってきたの。は、はよう、上がれ。
お前の好きなもろこをやいてあるに、さ、さ、はよう」
「はい・・」
婆の情になきだしたきのえの頭をなぜると婆はわらった。
「なに、男の一人や二人になにされようが、どうなとな?
大事なのはきのえが誰の子を産みたいかじゃわい」
「え?」
単純な言葉の中に真実がある。
この先のきのえの流れをかえる一石が投じられたときのえも、
勝源もその言葉を開いた婆もきがつきもしない。
が、勝源は婆の言葉に別の意味の危惧にきがついた。
『まさか。孕まされて・・・』
あの白蛇神の自信の裏がそれなのかもしれない。
勝源はもう少し様子を見なければならない事態に直面していた。
孕んでおったら、否が応でも
白蛇神に渡さなければならないのか?
なんという、卑怯な手でこの先もきのえの心をしばりつける。
七日七夜が開けても自由になれない。
孕んでないと判るまで、きのえの心情を白蛇神からそらす事が出来ない。
『口惜しやな』
だが、勝源は成ってみぬうちから、あれこれ思いめぐらす事はやめることにした。
「きのえ。さあ、たべようぞ」
きのえを促せば婆もさまに膳のしたくをはじめる。
いつも通りの生活の規律に戻してゆく事が最善の策に思える。
湯気の立つ味噌汁がはこびこまれ、婆の言ったもろこも香ばしいにおいをたてている。
「とにかく、まずは、くうことだ」
うなづいたきのえが箸をとった。
形だけはいつもの三人の生活になった。
あとはきのえの心底を日常にもどしてゆくだけである。
膳をきれいにたべおえたきのえがぼんやりと茶をすする。
「すこし、よこになってきたらいい」
勝源の提言に素直に頷いたきのえがふせこむと、
どんなにか精神がくたびれはてていたのだろうか、夕刻をすぎても泥のように眠る。
娘の疲労がこの安息でいくらかぬぐわれてゆくとおもえた。
夕刻をすぎてもきのえは起きてこない。
「まあ。よいわ」
よほど、心底、くたびれていたのだろう。
きのえの蹂躙の傷を癒すだろう睡魔こそ今の勝源にはありがたい。
ところが、家の中の束の間の安泰とはべつに家の外に妙に重苦しい気配をかんじる。
勝源は白蛇神がきたのかといぶかりながら家の外にでて、重苦しい物の正体を見極めようとした。
そとにでてみれば、きのえの眠る部屋の外に黒い塊が見える。
『黒・・龍?』
で、ある。
勝源に見抜かれていると気がつかぬのか、きにならないのか、
黒龍はうずくまったままみじろぎひとつうごかさなかった。
『おまえ・・』
白蛇神の周りをあれほど執拗にまとわりついた黒龍である。
ときはなたれたきのえの側にへめぐってくるのもふしぎではない。
「・・・」
かける言葉がとどくかどうかより、なにをいっていいのか。
自分の気持ちの中にこの地の祭神である黒龍へ、守護を当てにする自分がいないでもない。
自分の気持ちの色が諮り事のようにも思えると、白蛇神とさして、変わらぬ自分にきずまりにもなる。
『きのえへの思いは真らしいの』
それだけは本の事にみえた。
夢は深い傷痕を塞ごうと甘く柔らかな手当てを連れて来る。
きのえの夢の中で黒龍はきのえに追いすがる。
「本意じゃ」
多くは語らないが黒龍の心だけがうれしい。
「きのえは子供なんじゃろうが?」
すねてみせても夢は、きのえの痛手を埋め尽くそうとする。
「なにをいうておる。お前の事は」
それが証しに黒龍はきのえをうばいつくす。
黒龍にとって、自分という男を重ねられる女がきのえでしかないとみせてくる。
黒龍とむすばれた、今。
―それこそ、きのえが欲しかった―
さいわいの思いがきのえを包み、きのえの現はふさがれてゆく。
夢の中に逃げ込んだ精神があわれである。
現実は夢の幸いに程遠い。
この現が夢としることが、傷をいっそうえぐらすことになるというのに、
夢はきのえのなり得なかった先をみせて、一時の安らぎをあたえる。
「黒龍」
夢で呼んだ声に耳澄まされてきのえは、現実をとらえなおし始める。
傍らに眠るはずの黒龍がいない。
―なぜ?いないー
霞が掛った意識でどこにいったのだろうと考え出すと、
きのえの中で覚醒し始めた物が『黒龍がここに居るはずがない』と教えだす。
―なぜ、いるはずがない?―
自分でぼんやり訊ねた問いかけに、自分がこたえだす。
『白峰となにがあった?』
―ああ。ああ。そうだったー
すると、さっきの事が夢で・・・。
現実はのがれられない苦しみを与えてくれる事実をひらひらとふりかざして、
きのえをつつもうとしている。
―そう。そうだった―
黒龍は・・・。
黒龍こそが、きのえを白峰に追いやった元凶でしかない。
「おまえに、そんなに、すげなくされさえしなければ・・」
恋しい男だったはずの黒龍こそが憎い。
恋しい故に許せない。
泪が落ちてくるのは恋しいという色を身体の中から搾り出すせい。
雫の中に恋しいをつめこんで、流しきってしまえばきっと、この苦しさも消え去るだろう。
だのに、涙はあとから、あとから、湧いてくる。
『こんなに、恋しいというかや?』
―お前はばかじゃ。いくら、おもうてみても、どうにもならなんだ。
挙句、いくら、思うてもどうにも成らん身体になって―
上を向いたきのえの瞳から落ちる物が眦を伝い耳を沿い、うなじにまでながれてゆく。
髪までぬらし地肌にしみこんでゆく。
きのえの元に戻ろうとするかのように地肌にまとわりつく雫は
止まる事をわすれているかのように、きのえの瞳から次々とわきたってくる。
しんと布団の中、声をしのび、ひとり。きのえ、ひとりの悲しみに立つことをゆるす。
その時
「き・・のえ」
耳を疑る声がする。
だれとたずねずとも、誰の声か判るきのえの全身は黒龍の気配を探り始める。
「きのえ」
きのえは黒龍の気配を現実に物と知るが、みじろぎもみせない。
胸の中には突き刺すようないたみがある。
だれよりも、黒龍にしられたくないきのえになった痛みが胸に差し込む。
自分の鼓動があらあらしく、きのえの耳にひびく。
「きのえ。起きておろう?返事をしてくれぬか」
黒流はきのえが静かに泣いていたのも知っていたにちがいない。
きのえは声もださず、布団の中でくびをふり、強くくちびるを結ぶと布団の奥深くにもぐりこんだ。
「きのえ。きこえておろう?」
今更。なにを?
たけりくるって、なじりつけたい思いを堪え、きのえは耳をふさいだ。
「きのえ。きいてみたいことがある。でてきてくれぬか?」
すでに耳をふさいだきのえに黒龍の声はとどきはしない。
「きのえ」
八代神のいうとおり、きのえはこの黒龍をにくんでいる。
『おうてくれるまで、わしはあきらめん』
自分の心に従うと決めた今。黒龍はきのえにひれ伏すしかない自分の恋路と覚悟しきっている。
『きのえ。ずっと、まっておる』
きのえの部屋のそと。
黒龍は其の場所にすわりこんだ。
朝になって、そとをみて驚いたのは勝源である。
きのえの部屋の戸張の外。達磨のように座禅を組んだ黒龍がいる。
百夜通いどころの決意ではないらしい。
きのえは黒龍を察してか、戸張をあけようともしていない。
むりもないことであろう。
夜這いの如く、きのえの身体をむさぼりにきたかと、きのえも黒龍をおそれているのだろう。
だが、忍び込もうと思えば神のすることである。
どうとでもできよう者が外にへいつくばっているというところに黒龍の本意がにじんでいる。
「おまえ。やはり、きのえの心を解く気でおるんじゃな?」
思わず呟いた勝源の言葉に黒龍がふりむくと、わしが、みえているらしいのと小さな目礼をしてみせた。
白蛇神は黒龍が先にきのえをみそめたと言っていた。
その黒龍がきのえに本意でないようなくちぶりであったが、
しずが岳を舞う黒龍をみておれば、それも白蛇神の勝手な言い草とさっしがついた。
だが、白峰の元に行くときのえはいった。
勝源には黒龍の思いこそが本意であるとしかみえぬのに、きのえは黒龍に会おうともしていない。
これは、きのえが、我が身を恥じての故と思えるが、
黒龍もきのえの身になにがあったかを承知の上で、きのえにあいにきている。
勝源が何をこだわる必要があると、思うのは、大切な人間をなくした痛みをしっているせいでもある。
きのえが己一人のつまらぬ感情にこだわって、真摯にきのえを思う黒龍をなくしていいのだろうか?
勝源がいままで、見る事も出来なかった黒龍が見える事も、
きのえへの思いが勝源と一脈通じるものがあるせいにもおもえる。
その、黒龍はきのえにとって、本当に失くしていい存在なのだろうか?
これさえ、きずかぬまま、白蛇神の元にゆくのなら、黒龍とて、ひっしになろう?
つまり、うらを返せばきのえの心底の思いは黒龍にある?
ここをたしかめねば・・・。
勝源はもう一度家に入るときのえの部屋にはいった。
案の定きのえはおきていた。
「きのえ。おきておるのなら、ひとつききたいことがある」
うんとうなづいたきのえをたしかめる。
「きのえは黒龍と夫婦約束をしておったのか?」
勝源から、意外な名前を聞かされたきのえは、勝源が何故黒龍の名をだすか、
不思議に思いながらも、勝源の言葉を否定した。
「きのえが勝手に黒龍をおもうておっただけじゃ」
「おまえがか?黒龍のほうからでなく、おまえがか?」
きのえの言葉がうそでないとしたら、ふにおちない黒龍の行動である。
こくりと頷くきのえの瞳からなみだがあふれそうになる。
「きのえが勝手に黒龍をおもうておった。なれど、
黒龍はきのえがことを藤太のところにゆけというばかりじゃったに」
「あ?ああ」
やはり・・・。黒龍の思いは真といってもよかろう。
人であるきのえ。
勝源が娘に託した幸せ。
本来かかわりならぬ神はきのえをひととしていかせしめようとしたにちがいない。
「そこに、白峰があらわれて、きのえがこと・・・」
黒龍から掠め取らずにおけなかったということらしい。
白峰も白峰で本気であることはまちがいはないのだろう。
「きのえ。おまえに何があったかなぞ、いさい、きくきはない。
いまのおまえにききたいのは、お前の心はどこにあるかということでしかない」
くびをかしげたきのえに勝源はじんわりとたずねる。
「きのえは本意に白峰がよいというておるのか?
黒龍がことへの懸想はのうなったのか?」
「のう・・なった・・」
こたえてみせた、きのえの歯切れの悪さがきにかかる。
「ならば、なんで、黒龍におうて、はっきり、そういわぬ?」
「え?」
勝源は昨日の夜に黒龍が外からきのえをよばわったことをしっているようだった。
きのえが、戸惑いを見せているうちに勝源は戸板のまえにあゆみよった。
「なんで、ここをあけて、きちんと断りをいれぬ?」
勝源がいうと、雨戸はするりとひらかれ、部屋の中にひかりがさしこむと同時に
との外にうずくまる黒龍の姿があった。
おどおどと、きのえの瞳がゆらぐ。
「なぜ、とをあけぬか?おまえは、黒龍がそこにいることをしっておるからだろう?」、
「父さま?」
「いまのお前は黒龍に向かい合えば断りをいれぬばならぬ。そうかんがえておるから、
あうにあえなんだのでないか?自分の心をよう見定めてみてくれぬか?」
いいはなつと勝源はきのえの目の前で再び雨戸をしめた。
ふたたび、そこは暗いへやにもどった。
「まるで、今のお前の様なこの暗さではないか?暗闇を見詰めた眼にそとはめにいたい。
が、明るい物をほしがるおまえは、
わずかなろうそくのあかりさえおおきなひかりにみえておるのでないか?」
本当はそとの黒龍がほしい。だが、自分を卑下するきのえは暗闇の中に落ち、
一縷の光を白峰に求めているだけではないかと勝源がいっている。
「おまえももうこどもではない。じぶんのこころを見定める事くらいできるだろう?」
そして、おまえのこころがみえたとき、自分で戸をあけ自分できめてゆけ。
それがいいたくて、勝源は雨戸をしめた。
いいたいことを言い終えた勝源はきのえのへやをでた。
一人、暗い部屋のなかできのえはうずくまる。
『黒龍。お前が、今更・・・本意だというかや?』
それは、きのえもよくわかっている。
だけど、勝源に言われた意味もふくめ、きのえは黒龍がゆるせないでいる。
ゆるせないけれど、たしかに自分からあまどをあけて、
黒龍に白峰のところに行くと告げたくないのは、それで、黒龍をうしなうからだ。
失いたくはないが、ゆるせない。
赦せないのは、いっそう、こんなきのえを打砕いて、
無理矢理でもきのえを我が物にしようともしないせいもある。
白峰がみせる必死のかけらもない。
黒龍はきのえにすまなかったという悔恨だけでしかない。
そんな物なぞで、なにがぬぐえるという?
白峰に無理矢理とられたものは、黒龍にはぜがひでもほしくはないものでしかない。
黒龍にとって、きのえはそんな程度の女でしかない。
きのえという女の機軸に対峙して来る黒龍でない事がきのえをさらに否定する。
『おまえには欠片ほどの必死さもない』
黒龍と一つにむすばれたいと思う女心さえあさましく思えてくる。
黒龍の潔癖さかもしれないが、結局、女として対当に扱われない寂しさはみじめさだけをうむ。
に、較べ、白峰はきのえがのぞまぬかもしれぬというのに、きのえと共に暮す社をたてさせている。
自分を望む男の必死さがいとおしくみえてくる。
ついぞ、応えてやりたくなるというに、黒龍はこのみとせ、きのえになにひとつこたえようともしなかった。
『赦したくない。もう、これ以上、おまえにほだされたくはない』
だのに、何故一言黒龍に別れをつげようとせぬ?
『未練でしかない』
自分の気持ちをきりかえるためにも、きのえの成すべき事がみえる。
戸口に近寄るときのえは黒龍をよんだ。
「きのえ?」
きのえの声に黒龍はとぐちにちかよった。
「きのえは白峰のものになる。お前が、うろつくは、めざわりじゃに」
つめたい別離の言葉をなげかけられても、黒龍はたじろぎもしなかった。
「きのえ。それが真の心なら此処をあけて、わしが目の前でいうてみせい::」
黙りこくったきのえだった。
が、それでも意を決っして、戸を開け放とうとしたきのえの側に既に黒龍はたたずんでいた。
「おうてくれる気ならば・・・」
黒龍には板戸一枚くぐりぬけることなぞかんたんなことでしかない。
きのえの前に立った、黒龍をしると、きのえはついと、下をむいて黒龍の瞳をさけようとする。
「なぜ、さける?」
「なぜ?」
さけてきたのは、おまえではないか?
きのえの唇がわななく。
「きのえ。わしが胸がどんなに張り裂けそうか、判っておって、白峰の所にゆくというか?」
「苦しい?黒龍?苦しいというのは、どんなにしても
我が物にして見せようとした男が言う言葉じゃに。
お前は、白峰に先を越されて、口惜しいだけじゃに」
「きのえ。お前・・」
きのえがいうことはあながち、うそではない。
「そうじゃな。今更おまえが大事だと気がついたわしがくやしい。くやんでもくやみきれん。なれど」
黒龍はきのえをみつめた。
「身体のことなぞに拘って、おまえを、なくしとうはない」
「きのえは、白峰の事を身体だけを求めた男じゃとおもうておらぬ」
つい、このまえまで、こんな女びた言葉さえいえなかった娘がへいきで、さが事をくちにする。
「ならば、わしはどうじゃという?おまえの心をもとめておらぬといいたいか?」
「黒龍。おまえがいまさらきのえの心をもとめてどうなろう?」
口惜しい言葉をくちにするしかないきのえになる。
「きのえの心は身体ごと白峰にわたしてしもうたわ」
「きのえ。おまえは・・・」
今のお前の心は身体にひきずられている。
前のお前は、心にひきずられ、この黒龍に『おかしな気に成らぬか?』と、とうてみせたではないか?
きのえ。身体の結びが心をひきずるなら、心が伴う体の結びはお前の底の心をひきだすことができるのか?
『いっそ・・このまま・・おまえを・・』
黒龍の臍が固まろうかと思う矢先にきのえはつぶやいた。
「たとえ、こころがなかろうが、きのえは白峰の子をやどしておるかもしれぬ」
この先共に暮すしかない運命を与えようとした、白峰である。
「白峰がきのえを抱くということで、きのえと共に歩む先をつくろうとしていたとおもうと、
お前がいうたことは、きのえをすてたことではないか?」
藤太のところへいけと、なんどいったことであろう。
言い訳する言葉もなく、両手で顔を覆うしかない黒龍になる。
「おまえ、ひとりが苦しいと思っているか?きのえは・・・もう、おまえのことなぞ・・・」
お前のことなぞ、もういいのだといおうとする声が震え、きのえの喉がつまると、瞳からしずくだけがおちてくる。
「きのえ、何を言われてもしょうがないとは思う。だが」
黒龍はきのえの涙のかおをその胸によせつけた。
「おまえはわしのかたわれになってしもうておる」
その証がいこる。
「どんなにか、おまえがこいしかったか、おまえはしるまい」
そのほたえを。一つになりたいという希求をぶつけることを恐れた。
『きのえ。もう、えんりょはせぬ』
そんな遠慮で白峰におまえを奪われ、心まで渡されるなら。
白峰の暴挙を真摯と受止めるおまえなら、黒龍のいざなぎことで、おまえの心をとりかえしたい。
思いの丈をこめて、黒龍はきのえにいどみかかった。
「いや・・」
抗う声に屈する黒龍でなくなっていたが、きのえはさけんだ。
「いま、おまえにだかれて、もし、はらんだら、それは、どちらの命になるに?」
「あ・・・」
虚を突かれた態の黒龍の身体をおしのけると、きのえは寂しくわらった。
「もう、どうにもならぬ」
なにもかも、何もかもが、後悔におえる。
これしか、ないのか?
だが、すぐさまに黒龍はきのえをとらえなおすといいきった。
「白峰の子をはらんでおっても、おまえの本意はわしにあろう?」
きのえの泪をみた。きのえが本心黒龍にのぞまれたいといっていた。
「あやつの子をはらんでおってもかまわぬ。白峰の子ごと、わしのものにする」
どうしても、なくしたくないきのえときがついた今そんな事くらいで怯んでどうする。
「黒龍?」
「おまえはわしのかたわれじゃというた。おまえがわしをいやじゃと云うても、
わしのきもちは、もうかわらん。いいな?」
念をおされ、きのえはうなづくかわりに黒龍の胸にすがりついた。
黒龍の行為は一方できのえに白峰とのことをむしかえさせる。
哀しい記憶がきのえをつつみこむ。
「きのえはおまえを・・うらぎっておる」
「いかほどのことという?」
すんだこと。その後悔なぞもうする必要はない。
「あれはきのえとむすばれるためのしれんでしかなかったとおもうておる」
白峰の事がなかったら、きのえへの心を押し殺し藤太にやってしまうところだった。
あのままの黒龍なら、それでいいと、自分を偽り続けようとしただろう。
白峰のおかげで::きのえへの心のままをさらけ出す事が出来たと今はいえるきのえが側に居て、
確かなむすびをひとつにしている。
「きのえ」
焦がれた思いが猛りをゆさぶり、今、きのえは黒龍のものになる。
白蛇はあたまをもたげた。
「なにゆえ?」
きのえの元にちかよった黒龍がきのえにして見せた事が白峰につたわってくる。
わずか、一日。
簡単には、きのえをとりかえせまいとたかをくくっていた。
『黒・・・よう、やってくれたの』
だが、七日七夜。この契りはしきつめられる。
「きのえとおまえの七日なぞ、とりかえせぬことではない」
それには、きのえが再び白峰をのぞまねばならぬ。
逆にこのまま、きのえが黒龍をのぞむかもしれない。
だが、白峰にはその不安はないといっていい。
「この七日で・・黒、おまえがしることは、さぞかしつらかろう」
きのえ。おまえの身体は執拗なほどの白峰の寵愛をうけている。
その身体が見せる反応はことごとく、白峰に咲かされた女をかたどる。
其れを見る黒龍は悲壮な物になる。
きのえを諦めるしかないつらさのほうがよほどらくなものになる。
おまえもみじめなものだろう。
白峰の予測の通りと言ってもいい。
きのえに通じた物の蠢きにきのえは、かくもあっさりとあえぎをみせる。
それが、逐一、きのえを嬲った白峰の所作にきのえがいかなる応えを見せたかを
かたりだす。
「き・・の・・え?」
きのえにゆめうつつをあたえているのは黒龍のはずである。
だが、きのえは快さにあらがう。
「いや・・だ・・」
抗う声が甘く陶酔をつたえる。
伝えた口が呼んだ男の名が黒龍ではない。
睦事は白峰とだけの悪夢として、なかったことにしてしまいたい。
きのえの中から、隔離してしまいたいはずの記憶をさませる、同じ睦事は白峰にかさねってくる。
だが、そのかさねごとは、きのえの身体を甘やかに浸食している。
陶酔すればするほど、その快感がきのえの身体に白峰を意識させる。
「いや、ううん・・・」
心は白峰を否定しながら、快さがきのえをつつむとき、きのえの意識は白峰にあたえられた陶酔をほしがる。
「どこまできのえをおとしこみおってから・・」
きのえの意識を快楽の傀儡になりはてさせるほど、白峰はきのえの身体に己をたたきこみ、白峰をおぼえこませた。
「きのえ」
黒龍に抱かれながらきのえは白峰にあえぐ。
だが、これもむりもない。
精というものは思いにまでとけこむものである。
思いをわかすは、血のなせるわざである。
この血の中に精を混在させ溶け込ませたとき、思いは精にそめられる。
きのえにとって、初手の男であった白峰により、きのえは破瓜をうける。
破瓜の傷跡から精がきのえの血にとけこんでゆく。
そして、きのえの思いは白峰の精にそめかえられてゆく。
このことは、獣が如実に明かしている。
たとえば、純粋な白猫に黒猫がかかる。
是が、白猫にとって、はじめての交尾である。
ところが、この交接は甲斐を得ず白猫は子を宿さずに終る。
次の春に白猫は仮に純粋な白猫と交尾し子をやどしたとする。
生まれてくる子猫は白猫だけのはずである。
で、あるのに実際、生まれてきた子猫の中に黒い子猫が存在する。
これをみて判ることは、黒猫の精が牝の白猫の血の中にとけこみ、
黒猫の性にそめられたという事実である。
思いと云う物をもたない獣は牡の精の影響を地に溶け込ませたまま
毛色の違う子をうんでみせるが、思いを持つ人はおのれの思いをそめかえさせられてしまう。
まして、神なるものの異種の精が人の血に混ざりこんだことであたえる影響は
きのえの如く態をみせることになったとしてもなんらふしぎではない。
天に舞い上がる黒い龍の姿を見送るきのえの胸の中は哀しい。
自分の取った失態を覚えているだけに自分のこの先の運命がわかる。
やっと、心を晒け、結ばれた黒龍から与えられた快淫は確かにきのえの身体を酔わせた。
だが、その快淫がするどく高まり始めた時きのえの意識は白峰を思い始めていた。
一身が快淫を追従し始め、あえぎを露呈せざるをえないきのえになるころには意識さえもが、快淫を追う。
その時だったと思う。
意識が遠のくような高みに酔い出すと、身体と一体になった意識が白峰に抱かれていると教え始めた。
その快さを、与えてくれる当の白峰に訴えずにおけなくなると、うわごとのように、
白峰をよんだ。
快淫の波がひいてゆくと、現実、白峰になぞだかれていない自分ときがつく。
きのえは自分がしでかした失態を悟ると
「・・もう・・だめだ・・」
と、黒龍に告げる事以外残されていなかった。
「自分でも、自覚があるのか::」
俯いた黒龍だったが、さまに顔を上げなおしきのえをみつめた。
きのえが自分の取った行動にきがついていないのなら、黒龍さえ耐えればいい。
知らずにやっていることなら、きのえの意識が覚醒したときにこ
の黒龍にいだかれたことだけをよろこんでいられたことだろう。
だが、きのえの中に自覚がある。
「きのえ。お前の言うとおり、お前に懐妊があるか、まつことにしよう・・・」
情けなくもきのえが白峰の名を呼んだとき黒龍は萎えてゆく己をしらされた。
だが、きのえの中に精を解き放たずにすんだ事はかえって、黒龍にはよかったといえる。
一つに、きのえが白峰の子の懐妊がありえるかもしれないと意識する分だけ
身も心も白峰に従属されているといえる。
この状態がさらにきのえの中に白峰を浮上させる拍車をかけるとも考えられる。
いま、きのえと無理矢理七日七夜を通じてみても、白峰を拭い去る事さえできない。
それどころか、いっそう、黒龍の行動がもとで、白峰に束縛されるきのえを作る。
ならば、懐妊がないとしって、このさきの『白峰との縁』を考えなくてもよいと
なったほうがよかろうとおもえる。
実際、黒龍の換算によればきのえが孕む時期とは思えない。
障りを隠し祠に現われるきのえであったが、かすかな匂いと、
へばりついて甘えてくるきのえの体温が妙に芯熱があるように感じる時があった。
それが、障りであるなら、きのえはもう、七日もせぬうちに次のさわりを迎えるはずである。
黒龍は天に昇っていった。
目指すは八代神であるが、
はたして・・・。
黒龍を眼の前に八代神は渋い顔をしてみせただけである。
「もう・・・。どうにもならぬわい・・」
黒龍の目論見がきのえとのことでしかないとをみぬくと、
かける言葉はそれしかないのである。
「なにゆえ。断言できる?」
ねめつける黒龍の瞳を間向こうからうけとめると、
八代神はほううと、ため息をつく。
「おそろしいほどの惚れようじゃわい。
いまさら、おまえには、どうにもできぬ」
白峰が本意だという。
それは、いまさらながらであるが、
黒龍とて、同じ。
「後手にまわったら、それで、らちが、あかぬというか?」
「そんな、単純なことではないわい」
白峰がかけてきた願はすでに、八代神の差配の折のなかにある。
「なんだという?」
黒龍のおぼこさが、うんだ後悔をさらにふかめるだけでしかないが、
八代神はいうしかないと思う。
「亜奴は・・・七日七夜だけをのぞんだわけではない」
それは、つまりどういういみであるのか?
黒龍のとまどう目をのぞきこむと、
「七日七夜。七重八重。輪廻転生の末。きのえを妻にすると願をかけてきた」
「七重八重?・・妻に・・?」
黒龍の知らぬ所である。
およそ、神が人を妻にすることなぞできないのである。
それが、ゆるされないからこその七日七夜がある。
が、白峰はきのえを妻にすると、願をかけたという。
「七日七夜。これをきのえが死してのちの転生のたびに八度くりかえせば、
九度目の転生ののちにその魂は神格に値うものにかわる。
神の寵愛の真が人の魂を神の域にたかめる」
「な?なんだと?」
「そこまで、白峰が己の真を量りにかけておる。
かんがえてもみよや。九度の転生・・・。千年はかかろうて・・・」
その間に白峰が自分から交わりをもてるのは、
七日七夜を九度。
そのうちの一度はすでに終わっているといっても良い。
「気が遠くなるほどの長い時をはかりにしても、
きのえを妻にするという白峰の真がいかばかりのものか、
わしはじっくり、みせてもらおうとおもっている」
「信じられぬ・・」
白峰がなにゆえに、それほどに、きのえに本意になるのか。
「亜奴は冷たい男じゃあ。が、一度思い込むと
そこが、蛇の性。執念深い・・・」
「それで、おまえは、白峰の願をうけたということなのだな?」
「わしがなにか、しっておろう?」
人の世において、閻魔といわれる八代神である。
「わしは、人の生き死にをきめるのではない。
わしは、人の生き様を計る役を負うておる。
人の世に介在した以上、白峰も同じ。
その生き様をはかりにするが、願の返し・・・。
返しができぬば、遠慮なく白峰を握りつぶす・・・」
己の存在をかけて、きのえを追うという白峰であらば、
「その願、見とどけぬわけにはいかぬ」
「・・・・・」
「かんがえてもみよや。千年はながいぞ・・・。
それでも、きのえを欲する白峰におまえが、かてるわけがない」
「・・・」
「後手でありとも、ふんでみたいと思うかもしれぬが、
これは、早い者勝ちじゃ。いさぎよく、あきらめよ」
「・・・・」
いおうとすることを先にくちに出され鋲をうちこまれると、
黒龍は言葉もでない。
「おまえは、残りの七日七夜をきのえと昇華するしかあるまいて・・・」
八代神の告げる事実は黒龍の模索をくずしてゆくだけである。
「そして、おまえが、身をひけ・・・」
苦しい選択を選べと八代神ははっきりと宣告した。
だが・・・。
「いくら、法がありとても、まちごうておる。
人を人として、生かせしめぬ事が出来ぬは、
白峰もわしも同じなら・・・」
つぶやいた言葉が黒龍のうなりにかわった。
まちがいなく、白峰と黒龍の争いになると
八代神は瞳を伏せるしかなかった。
「勝源!!」
血相を変えて村長の勝源の元に
走りきた男は
震えながら、
琵琶の湖の上空を指さした。
「どうしたという?」
ゆっくりと腰を挙げ
外にでてみただけで、
勝源の目に飛び込んでくる
琵琶の空は
おどろしいほどの
暗雲を立ち込めている。
「勝源。空がおかしいだけじゃない。
あの空からふわふわした、煮凝りのようなものが
陽炎のようにあたりいったいにおりてきて・・・」
その陽炎を受けた生き物が倒れているという。
「どこかに逃げようとしていた鳥も陽炎にあたると
空からぱたりとおちてきおる」
「瘴気だ・・・」
「瘴気?なんだ、それは?」
「あふりというたら、わかるか?」
「なに?」
あふりは神が発する怒りの毒素のようなものである。
自在にあふりをあげることもあるし、
怒天、髪をつきぬけて、神自身も気がつかぬうちに
あふりを撒き散らすこともある。
「と、いうことは・・・神が怒っているということか?」
「そうだ・・・・」
「勝源・・・・」
男はいくつかの報せを搾取している。
「そりゃあ・・・きのえにかかわることじゃあないのかい?」
勝源はうなづくしかなくなる。
「そうだ・・・」
男は自分の推理を口に出すぶしつけをわびながら
勝源に尋ね返してみた。
「それは、つまり・・・。
きのえを差し出せということか?
もし、そうならば・・・・」
きのえを差し出せばそれで、事がおさまるのじゃないか?
村長であるならば、
みなのためにもきのえをさしだしてくれないか?
だが、そんなむごい言葉を言うのも辛い。
勝源をせめる言葉を吐くのも辛い。
いいあぐねるが、やはり、このままでは人の命に
この先のたっきにかかわる。
男の心を読んだか
勝源は首を振った。
「きのえは・・・とうに・・・さしだしておる・・」
実際は白峰がうばいさったといっていい。
「あの場所であふりをあげておる神は
きのえをさしだせといっているわけではない」
かといって、その争いがきのえにかかわりのないことではない。
「神は・・・・きのえをうばいあっておる」
勝源に告げられた事実に男の顔色が
いっそうさめてゆく。
「な・・?すると、あれは・・・
神があらそっているというのか?」
「そうだ。きのえをさしだそうにも・・・。
どちらにさしだしても、事はしずまらない」
「な・・・なんということに・・・」
争いを鎮める方法がないということになる。
どちらかが、きのえをあきらめるまで、
争いがつづくということになろう。
「神が命をかけて争っている。
あふりもさぞかしおおきいことであろう」
どうすればいいか。
どうすれば、琵琶の湖を、空を、生き物を。人々を、作物を・・・
まもればいいのだろう。

